| 3Dレンズの改造 |
LUMIX H-FT012 12.5mm F12 をマクロ撮影用に改造する |
2015/12/06 |
はじめに
上のタイトル写真を見れば一目瞭然と思いますが、左が改造品、右が無改造です
Panasonic の 3Dレンズ「LUMIX H-FT012 12.5mm F12」は、手頃で
「3D Photo/立体写真」の好きな方々には馴染みのあるレンズですが
「ステレオベース(SB)=10mmと短い:立体感の弱い写真しか撮れない」と
「固定焦点:近くの物がボケる(ピントが合わない)」と言う2大欠点が有ります
「ステレオベースが短い」と言う欠点はマクロ撮影に使う場合は利点になります
「固定焦点なので近くの物にピントが合わない」を改善すれば
マクロ撮影に使うのに最適な 3Dレンズになります
マニアの間では、この弱点を克服するために、
クローズアップレンズを付けたり、鏡筒とフランジ部品の間に平ワッシャを
挟む方法などの工夫が定番になっています(「ゲタ戦術」と言うらしい)
私もこの「ゲタ戦術」を試してみましたが、焦点の合う範囲の制約があります
分解して、シンプルな構造と加工し易そうなプラスチックの鏡筒を見て
一層の事ここに「ヘリコイドを付けて見よう」と思い立ちました
(1)このレンズにヘリコイドを付けて焦点調節できる様にします
ヘリコイドの繰り出し量が適当なものを探していて
ヘリコイド付マウントアダプター「LM-M43」や「LM-NEX」を見つけました
これは、ライカMマウントレンズをミラーレス一眼カメラに装着するための物です
繰り出し量は約5mm位で、f=12.5mmのレンズにはちょうど良さそうです
(2)このレンズをAPS-Cサイズのカメラにも装着できる様にします
「LUMIX H-FT012 12.5mm F12」は、Micro4/3用のレンズですが
撮影出来る 3D画像は 左端40%と 右端40%位で 中央の約20%は使えません
マクロ撮影では左右端のさらに外側の画像が必要です
そこで、Micro4/3のセンサーよりも大きなAPS-Cサイズで使う方が理想的です
1.ヘリコイドを付ける
(1)分解する
加工するために分解します(全て分解しました)
左写真の右上のフランジと、右下の接点と基板、リアカバーは使いません
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H-FT012 12.5mmF12 を分解した状態 | |
加工後・組立前の状態 |
(2)鏡筒部を削る
無限遠が出るまで、レンズ鏡筒部のフランジ側を削り取ります
残す部分(フランジに固定する部分)の厚さの確認はノギスで行ないました
最終的には、ヘリコイド付マウントアダプター「LM-M43」や「LM-NEX」と
アダプター「L39-LM」をセットしたカメラに当てがって無限遠を確認します
[注意点]
ゴミがカメラの内部に入ってセンサに付着しない様に、切削粉を良く取り除きます
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| 3Dレンズの加工位置 赤色の線まで0.9mm(L39-LMフランジの厚さ分)削り取る、残り0.4mm | |
(3)穴明けする
残ったレンズ部のフランジに固定する部分に穴明けして
[L39-LM]マウントアダプタ側には、対応した位置にタップを立てる
位置決めピンや切り欠き等の穴を避けて、(レンズ正面から見て)垂直・水平の
位置から反時計回りに少しずらした位置にしました
なるべく小さいネジが良いですが、手持ちのタップの内最も小さい M2ネジを
使用しました (これは近くのホームセンターで入手したものです)
キャップを止めるネジ3点の内、下側 2点は [L39-LM]フランジ枠の下になるので
残った1点と対称な位置にスタッドを付ける (ネジを立てた樹脂片を接着する)
(キャップ下面と[L39-LM]フランジ枠の下面が、同じ高さになれば OK)
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[L39-LM]フランジの穴明け・タップ立て | |
スタッド接着 |
(4)組立てる
組立は全てネジ止めにします
レンズ部を 4本の M2ネジで、[L39-LM]に固定する
キャップをレンズ部に固定する
上部の 1本は元々固定していたネジで止める
残りの2本は[L39-LM]と干渉するので使えません
代わりに、下側の対称な位置に付けたスタッドにネジ止めします
改造前、3本のネジで止めていたところを 2本にしてしまったが
キャップの下端が装着したマウントアダプタに接するので、意外に安定しました
最後に、組立てたレンズをヘリコイド付[LM-M43]マウントアダプタに装着すれば完成
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左:キャップ、右:[L39-LM]にネジ止めしたレンズ | |
左:ヘリコイド付[LM-M43]、右:組立後のレンズ |
(5)調整する
調整方法は原始的ですが「削っては組立てて確認する」です
光軸調整 [L39-LM]のフランジへの取付穴をずらしたい方向に削り長穴にします
組立てて撮影を行い確認します (上下方向・左右方向・回転方向)
焦点調整 無限遠が出ない場合は、[L39-LM]のフランジに当たる部分を削ります
削り過ぎて無限遠が出過ぎる(オーバーインフになった)場合は、
適当な厚さのシムを入れます
今回の出来栄えは、ほぼ無限遠が出ている様です
光軸もほぼ合っていますが、反時計回りに少しずれています
ずれの角度は小さいので、画像を調整する時に補正する事にします
2.他のカメラにも装着する
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ヘリコイド付[LM-NEX]にLUMIX H-FT012 を装着 | |
左:ヘリコイド最短(無限遠)、右:最長(繰出量:5mm) |
1.で LMマウントに改造したので、他のカメラに取り付けるのは簡単です
NEXマウントのカメラには ヘリコイド付[LM-NEX]を準備するだけで装着出来ます
ヘリコイド付[LM-xxx]マウントアダプタなら(鏡筒内径がφ25mm以上)装着可能です
(xxx : マウントの通称、ミラーレス機のほとんどに対応するものが有る様です)
[注意点]
鏡筒内径以外に、無限遠に焦点調節した時レンズ後端がカメラ内部に
当たらないか確認しておきます
3.撮影結果
(1)マクロ撮影の場合 (以下の画像は比較のため大きさを合わせてあります)
左側は撮影されたそのままの画像を縮小したものです
ツインレンズの場合、左側に右目用、右側に左目用の画像が写ります
右側はステレオフォトメーカーで自動位置調整・アナグリフに変換・縮小しました
アナグリフの画像をクリックすると、大きな画像(横幅1366画素以下)が見られます
Micro4/3用のレンズなので、APS-Cでは四隅がケラレますが、そのまま掲載しました
APS-C では撮影画像の約半分位の、立体感の有る3D画像が出来ます
Micro4/3 では3D画像として立体視できる部分が狭くなります
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APS-Cセンサで撮影 | | 左の画像のアナグリフ |
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Micro4/3センサーで撮影 | | 左の画像のアナグリフ |
(2)最短距離での撮影
APS-C では飛び出し過ぎですが、立体感の有る画像が出来ます
Micro4/3 では3D画像として立体視できる部分がほとんど有りません
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APS-Cセンサで撮影 | |
左の画像のアナグリフ |
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Micro4/3センサーで撮影 | |
左の画像のアナグリフ |
4.今回使った工具類
特殊なものは有りません、全てホームセンターや百円ショップで入手したものです
この他に、サンドペーパーなども必要です
材料は、瞬間接着剤、M2ネジ(4本) です
スタッドの材料として低発泡塩ビ板(t=2mm)、硬質塩ビ板(t=1mm)を少量
5.(番外編) 部品調達のエピソード (価格は2015年10月現在の参考値です)
今回は、ヘリコイド付マウントアダプターの「LM-NEX」を最初にヤフオクで購入して
「LM-M43」は、中国の通販サイトで購入しました
「LM-NEX」は、Amazonで約9,000円で購入出来るが、ヤフオクでは約7,000円でした
(後で調べてみると中国の通販サイトでは US$27.50位で購入可能でした)
「LM-M43」は Amazonでは17,800円したので、AliExpress(中国)から購入しました
送料込みで US$47.45(クレジット引落 \5,774)ですが、到着まで約2週間位でした
「誤品が届いた」
注文から 12日目に届きましたが、箱に「LM-M43」と記入されているにもかかわらず
「LM-NEX」の品物が入っていました
発送店宛に写真を添付してクレームのメール(サイトのメール機能を利用)を入れると
(前もって写真を添付しているにもかかわらず)「写真を送れ」と言って来ました
「最初のメールに添付済だ」と返答すると、あっさり「返品してくれたら直ぐに
再送する」と言ってきて、送付先と「最も安い方法で送れ」と記入されていました
「返品(国際スピード郵便)」
どうやって送り返したら良いか調べて見ると
エコノミー航空(SAL)便 小形包装物(国際書留付き) 570円
航空便 小形包装物(国際書留付き) 600円
EMS(国際スピード郵便)追跡可 900円
などが有りましたが、郵便局の窓口で聞いてみると「EMS」が一番手軽でした
送り方はレターパックとほとんど同じで、INVOICE(通関用の書類)を添付します
追跡してみると送付から3日後に先方へ届いていました
「返送料の請求」
返送後、追跡番号と EMSの料金を連絡すると「直ぐに発送する、US$7.4を返金する、
商品到着後に Open Dispute(係争開始)をしてくれ」と返事があった
そうこうする内に「Purchase Protection(購入保護)」の期日が近づいていたので
30日間の「Purchase Protection Extension Request(購入保護延長要求)」を
申請して認められた
返品から13日目に正規品が届いたので「Open Dispute(係争開始)」して返送料請求、
誤品を送り返した追跡番号を再度連絡、「EMS料金のレシート写真」を再送
販売店が認めたので、約1週間後にクレジット口座に US$7.4(\-922)返金された
海外の通販サイトからはこれまで、Amazon.com(USA)と AliExpress(中国)から、
それぞれ1点づつ購入した経験が有りましたが、トラブルは有りませんでした
今回のトラブルのおかげで、いろいろ勉強になりました
慣れない英語(Google翻訳駆使)で、やり取りすること約1ヶ月で全て完了しました
Google翻訳は頼りになります!
とにかく証拠として、記録(写真撮影)、書類は全て保管する事
日付なども重要な情報だが、写真撮影する事により日付の記録にもなるので
カメラの日付も正確に設定します
なお、海外の通販サイトからの購入は個人輸入に当たりますが、(品目によります)
約16,000円までは関税も消費税も免除されます
9.おわりに
(1)まとめの一言
この改造では自由な距離で焦点を合わせる事が出来る様になりましたが
無改造の場合と同様、1m程度以遠はパンフォーカスになりますし
立体感も小さくなります
実際の守備範囲は 0.1m〜1m位でしょう
最近接では、レンズ前 3cm位でも焦点は合いますが、Micro4/3センサの場合は
ステレオ画像として使える部分は殆んど無くなります
ステレオ画像として使える部分は、センサーの両サイドの外側に結像するからです
APS-Cサイズでは、このレンズの能力をフルに活かす事が出来ます
最近接では、レンズ前 3cm位でもステレオ画像として使える部分が十分に有ります
ただし、うまく照明しないとレンズ鏡筒の影が出てしまいます
また、(ステレオベース10mmでも)最近接では立体感が出過ぎます
このマクロ撮影用に改造した LUMIX H-FT012 は
APS-Cサイズのカメラに付けて使う事をお勧めします
この改造記が、3D Photo/立体写真 好きの方々の参考になれば幸いです
(2)こんな失敗しました
LUMIX H-FT012 には、レンズフードが二重に付いています
保護フィルターの直ぐ内側の窓は、縦の直線の部分で左右の視野を遮って
画像中央の2本のレンズの画像の重なりを防ぐためのものです
その奥のそれぞれのレンズ直前の丸い窓は、レンズ内の迷光によるゴーストや
フレアーを防ぐためのものでしょう(たぶん)
私は、少しでもイメージサークルを広げようと思ってこのレンズ直前の丸い窓を
広げてみました(最上部のタイトル写真)
その結果、イメージサークルは幾分広がりましたが、レンズ内の反射によると
思われるゴーストやフレアーが激しく出る様になってしまいました
下左は、画面左上と右下に激しくゴーストが出て使い物になりません
下右は、比較用のオリジナルレンズ(固定焦点)の画像です
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(イメージサークルを広げた)改造レンズ | |
オリジナルレンズ |
(3)チューニング [1] (レンズ直前の丸窓)
レンズ直前のアパーチャー(丸窓状のレンズフード)を調整してみました
上下方向は欲張らずにオリジナルと同じとして、マクロ撮影用に
イメージサークルの左右方向だけを広げます
両方のレンズの中央側だけ窓を広げて(寄り目)、外側はそのままとします
これで、ゴーストは目立たなくなり、マクロ撮影時の画像領域が広くなりました
下左は、チューニング後に試し撮りした画像(最近接距離)
枠線は APS-C、M4/3、GH2-16:9(横長)の画面領域を示しています
こうして見ると APS-Cの外側にも使える画像が有りました
下右は、この時のアパーチャーの形状(黒紙をクラフトナイフで切り取っただけ)
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(ゴーストを改善した)改造レンズ | |
レンズ前窓を内側に広げ長円窓にした |
上の写真を各サイズに切り出してステレオフォトメーカーでアナグリフに
変換してみました
最後の[M4/3]は、3D画像に利用できる部分がほとんど無くて、自動位置調整は
出来ませんでしたので、手動で右に一杯ずらしています
(4)チューニング [2] (左右の視野を制限する角窓)
残りの調整は、中央の重なりを少なくする事ですが、これは遠景撮影で中央が
黒い帯となる事とのトレードオフになります
別途ステレオベースの長い 3Dレンズを製作したので、このレンズは
主にマクロ撮影用として、レンズ前両側の狭いフードを付ける事にします
このチューニングにより、マクロ撮影に十分使える様になったと思います
最短撮影距離に焦点を合わせた時、中央の重なりを少なくすると(下左写真)
無限遠に焦点を合わせると、中央に黒い帯が出てしまう(下右写真)
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最短距離に焦点を合わせた時 | |
無限遠に焦点を合わせた時 |
(5)チューニング後の試写結果 「Pincushion (針山)」 (最短撮影距離)
フルサイズの撮影画像 (枠線は APS-C、M4/3、GH2-16:9(横長)の画面領域)
平行法
アナグリフ
(追記1) SB=10mmの謎が解けた! 【2015/12/16 追記】
「Micro4/3用 3Dレンズなのに、なぜこんなに離れ目にしたか?」大きな謎でした
大先輩の 6IooI9さんから「Panasonic DMC-GH2 では横長フォーマットを選ぶ」と
伺ったので調べてみました (6IooI9さん、有難うございました)
私が使っている OLYMPUS OM-Dの場合、16:9のフォーマットを選んでも
4:3の画像(4608×3456画素)の上下を切り取った(4608×2592画素)だけですが
DMC-GH2 では 4:3画像は 4608×3456画素、16:9画像は 4976×2800画素でした
センサーサイズを計算してみると GH2の場合 16:9画像では 18.7×10.5mm位
4:3画像の 17.4×13.0mmに比べて、横幅が 1.3mm広いので∞撮影時ならまずまずの
立体画像の領域が確保されます
しかし、
最短撮影距離ではセンサーの両サイドの外側に結像することに変わりはありません
下左画像:オリジナルレンズ(固定焦点のためピンボケ)
Panasonic DMC-GH2の16:9の(無限遠時の)画像領域にチューニングされている様です
近接撮影した場合、立体画像の領域は赤枠内の部分だけになります
下右画像:(参考)マクロ撮影用にチューニングした結果(フルサイズセンサでは)
最近接撮影時に、立体画像の領域を2倍以上に広げることが出来ました (2015/12/19)
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オリジナルレンズの画像(固定焦点のためピンボケ) | |
改造レンズ(最短撮影距離)の画像 |
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ご覧頂きましてありがとうございます
ホームページやブログで情報公開している方々の貴重な体験を活用させて頂きました
オリジナルがある場合は参照出来る様に場所を示し詳細は省いています
写真は全てオリジナルです (著作権は放棄しませんが営利目的以外は自由に使って下さい)
内容に付いてはありのままを記載していますが、間違いや誤解があるかもしれません
試す場合は全てご自身の責任で行って下さい
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